【知財情報】知財高裁平成31年(行ケ)第10043号のご紹介

第1 事案

「高コントラストタイヤパターン及びその製作方法」とする発明について、進歩性がないと判断した事例。

第2 概要

1.本件発明の請求項3

可視面(11)を有するタイヤ(1)であって、前記可視面は、該可視面とコントラストをなすパターン(2)を有し、前記パターンは、互いに実質的に平行であり且つ0.5mm未満のピッチ(p)で配置された複数個のブレード(22)を有し、前記ブレード(22)は。前記ブレードのベースから前記ブレードの端に向かって減少した断面を有し,前記ブレード(22)は各ブレード間に空間が存在するように配置され、各ブレードは、0.1mm〜0.5mmの平均幅(d)を有する、タイヤにおいて、
前記ブレード(22)の壁は,その面積の少なくとも1/4にわたり、5μm〜30μmの平均粗さRzを有し,この平均粗さを有する前記ブレードの前記壁は、前記ブレードの高さの下四分の一に位置している、タイヤ。

上記下線部分が主引例との相違点である。

2.審決の概要

主引例として、甲1発明(特許第3007825号公報)が挙げられ、副引例として、甲2文献(特開2003-252012号公報)が挙げられている。

甲1発明には、以下の内容が記載されている。

「タイヤ1のサイドウォール面2に設けた表示マーク3の外面を、一定方向にのびかつ等ピッチで平行に配された多数のV字状の細溝4が設けられた凹凸状断面とする空気入りタイヤ1であって、この細溝4の溝深さbを0.5mmとし,溝間ピッチaを0.3mmとした、空気入りタイヤ1」が記載されている。

しかしながら、甲1発明には、多数の細溝4から形成される壁状の構造の平均粗さについて特定されていない。

これに対し、甲2文献には、以下の内容が記載されている。

タイヤのゴムに添加された添加剤がタイヤの外表面に滲み出してもこれを目立ち難くして外観の悪化を抑制しうるために、外部から視認れやすいサイドウォール部3の外表面およびサイドウォール部の外表面の模様9に、十点平均粗さRzが5~100μmの表面粗さ、特に好ましくは15~35μmの表面粗さを有する粗面部5を形成することが記載されている。

しかしながら、コントラストを形成することを目的に所定の表面粗さの粗面部を形成することを示唆しているとはいえない。
そうすると、甲1発明に、コントラストを得ることを目的として甲2文献に記載された事項を適用する動機付けはなく、また、甲2文献に記載された事項を適用しても、甲1発明のサイドウォール面及びパターンのすべてを粗面部とすることとなり、上述の本件発明の目的を達成するものとはいえないとして、進歩性を認めた。

3.裁判所の判断

裁判所は、甲1発明に甲2文献の記載事項を適用することの難易及びその際の構成について以下のように判示している。

甲1発明は,タイヤのサイドウォール面に設けた表示マークの識別性を向上させることを目的とするものであるから(甲1段落【0001】,【0006】),当業者であれば,表示マークの識別性をさらに向上させることを検討すると考えられる。また,「近年は,特に乗用車用タイヤにおいて外観に優れたタイヤが好まれ,表示マークの見映えの向上も要望されるようになった」との記載(甲1段落【0002】)からすれば,表示マークの識別性向上は,タイヤの外観を優れたものとするための一手段であり,甲1発明のタイヤの外観をさらに向上させる手段があるのであれば,それが望ましいことといえる。
ここで,甲2文献は,空気入りタイヤを技術分野としているから(甲2段落【0001】),本件発明と技術分野が共通しており,しかも甲2文献は外観を向上することを目的とするとされているから,甲1発明に接した当業者であれば,甲2文献に記載された内容を検討対象とすると考えられる。そして,甲2文献の記載を具体的に見ると,時間の経過によって,タイヤのゴムに添加されたワックス等の油分や老化防止剤などの添加剤がタイヤの外表面に移行して滲み出し,外観を損ねるという現象を課題として認識し,これを解決するための技術的事項が記載されたものであることがわかる。このような現象は,甲1発明のタイヤ全体に生じうるものといえるが,そうなれば甲1発明のタイヤの外観を損なうことになる。また,このような現象は,甲1発明の表示マーク部分にも生じうるものであり,そうなれば表示マークの識別性の低下をもたらす。よって,甲2文献の記載事項は,表示マーク部分を含む,甲1発明のタイヤの外観をさらに向上させるのに適した内容と考えられるから,当業者であれば,甲1発明に甲2文献の記載事項を組み合わせることを試みる十分な動機付けがあるといえる。甲2文献には,コントラストを高めるという発想はないが,そうであっても,別の理由から,甲1発明との組み合わせが試みられることは,以上に述べたところから明らかである。

裁判所は、上記のように判示し、進歩性を否定している。
一方、裁判所は、上記判示に基づき、被告らの主張を以下のように退けている。

被告らは,甲1発明のパターンを含むサイドウォール面のすべてを粗面部とすると,コントラスト効果が当然に高まることはなく,本件発明の目的を達成できないと主張する。しかし,本件発明には,ブレードを含む可視面全体を5μm〜30μmの平均粗さRzを有するようにした構成,すなわち,甲1発明に甲2文献の粗面部を適用した構成も含まれることは,上述のとおりである。
そして,構成が同一であれば効果も同一であると考えられる。
よって,本件発明には,甲1発明に甲2文献の粗面部を適用した構成と同程度のコントラストしか生じないものが含まれているのであるから,甲1発明に甲2文献の粗面部を適用した構成が,本件発明の目的を達成できていないとはいえない。また,以上によれば,本件発明に,顕著な作用効果があるとも認められない。

第3 考察

本判例は、甲2文献の課題の認定に基づき、甲1発明にも適用できることから、甲1発明に甲2文献を組み合わせることは可能であると判示し、それによって、構成が同一であれば、本件発明と効果も同一であると考えられると判示し、進歩性を否定しているものである。
無効等の場面において、対象特許と課題が異なるような引例が発見された場合、上記の認定は参考になると思われる。

(文責:正木)

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