【知財情報】知財高裁令和5年(行ケ)第10038号のご紹介

第1 事案

不服2022-8603号事件の審決取消訴訟。
上記の不服審判では、下記の商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願したところ、商標法第3条1項3号および4条1項16号に該当するとして拒絶審決を受けたものである。

 athlete Chiffon 

第43類

「飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」

(本願商標) (指定商品等)

 

第2 概要

1.裁判所の判断

裁判所は、本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当すると判断した。以下、商標法3条1項3号に絞って記載する。

裁判所は、まず、商標法3条1項3号の趣旨について以下のように説明している。

「・・・これは、同号掲記の標章は、商品の産地、販売地その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである。」

そして、本願商標が上記に該当するかについて、以下のように判断している。

「・・・本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、これをその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」に使用しても、これに接する取引者、需要者に、当該役務において提供される飲食物が運動選手向けのシフォンケーキであること、すなわち、役務の質(内容)を表示したものとして認識させるにとどまり、役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえる・・・」

なお、上記の判断の根拠として、裁判所は以下の点を挙げられている。
・「athleteは、「運動選手。スポーツ選手。アスリート。」等の意味を有する。
・「Chiffon」は、「シフォンケーキ(chiffon cake)」等の意味を有する。
・各種ウェブサイト、新聞記事等で、「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、広く使用されている実情が認められる。

2.原告の主張

原告(出願人)は、以下のように、「athlete」「Chiffon]が多義語である等の理由により、需要者は必ずしも「運動選手用シフォンケーキ」と理解されない旨主張している。
・「athlete」の語からは、「元気」「頑丈」「健康」等の優れたイメージを想起する。このため、「運動選手向けの」という単純な意味合いだけで需要者が理解することはない。
・シフォンケーキ専門店に限らずに「シフォン」「chiffon」の文字を含む店名の店が存在している。すなわち、飲食物を販売又は提供する業界でも「Chiffon」がシフォンケーキを意味しない例が多数存在する。

裁判所は、これに対し、「標章中の「アスリート」「athlete」が取引者・需要者に「運動選手向け」の商品又は役務を示すものとして認識されるからといって、その実際の需要者として運動選手のみが想定されることになるものではなく、両者は次元の異なる問題である。」「取引者、需要者の多くが、「chiffon」をシフォンケーキと認識することに変わりはないの」等として、主張を一蹴している。

第3 考察

(1)識別力に関する審査、審判、裁判所において、実際の使用例がある場合には、識別力を有するという判断を得ることは至難であると思料する。
その理由は、判決内で示されているように、「誰もがその使用を欲するものである」とともに、「多くの場合、自他商品・役務識別力を欠」くからに他ならない。
判決において、ウェブサイトや新聞記事等で「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、広く使用されている実情が確認されている、との記述がある。また、パンと菓子の教室のメニューで、「アスリートシフォン」というシフォンケーキが提供されている、との記述もある。
上記のような実情がある場合、「athlete」「Chiffon」が多義語であるとか、画一的な意味を生じるわけではない、という主張の効果は低い。

(2)なお、本判決とは関係がないが、本願商標「AthleteChiffon」は、第30類においても出願されている。(こちらも、識別力を有さないとする審決を受けている。)
もし「AthleteChiffon」が飲食店の名称であっても、第43類(飲食店の名称の区分)のほかに、第29~33類(飲食品の区分)についても権利化しておく方が安全である。飲食店の提供に係る飲食品は、店内で食される場合(イートイン)は商標法上の「商品」には該当しないが、持ち帰られる飲食品(テイクアウト)は、商標法上の「商品」に該当し得るためである。

文責 三上

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