【知財情報】知財高裁令和5年(行ケ)第10005号のご紹介
第1 事案
不服2022-7645事件の審決取消訴訟。
上記の不服審判では、下記の商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願(商願2021-60396号。以下「本願」という。)したところ、下記の引用商標(登録第6468175号商標。以下「引用商標」という。)に類似するとして拒絶審決を受けたものである。
(本願商標) | (引用商標) |
第2 概要
1.裁判所の判断
裁判所は、「構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されない」としつつ、リラ宝塚事件、SEIKO EYE事件、つつみのおひなっこや事件から、以下の観点を持ち出している。
「商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である」(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。 |
そして、本願商標が上記観点にあてはまる(構成部分の一部を抽出することが許される)かどうかにつき次のように判断している。
「本願商標の3段の各構成部分は、外観上それぞれが独立したものであるとの印象を与え、視覚上分離して認識されるものと認められるから、上記各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない。」 |
また、分離されたとしても、本願商標は「A」が図案化されている。このため、「A」と認識されない場合は、引用商標とは非類似となる。その点については、以下のように判断している。
「頂点から左右斜め下方向に同じ長さの二本の直線が二等辺三角形状に伸びるという欧文字20 「A」の形状の特徴を備えており、両隣の「K」及び「ZE」の欧文字と、同じような大きさ、同じような間隔で一連に表されていることからも、「A」の文字をデザイン化したものと認識されるから、本願商標に接した取引者、需要者は、中段の構成部分は、全体として「KAZE」の欧文字を表したものと認識するといえる。」 |
さらに、分離され、「KAZE」と認識されるとしても、それが要部でなければ類否判断に資されることはない。その点については、以下のように判断している。
「本願商標の構成態様においては、「KAZE」の欧文字部分は、他の構成文字に比して大きく顕著に表され、平行線の間に配されることにより、視覚的に際立った印象を与えるものであるから、看者の目をひく部分であり、取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。」 |
2.原告の主張
なお、原告(出願人)は、「欧文字「A」をデザイン化したものと容易に看取されることはな」い、「本願商標の上段部分の「-PRINTABLE HEMP WEAR-」なる表示は、本願の指定商品「被服」との関係において、原告のブランドである「PRINTABLE HEMP WEAR」シリーズの商品であることを認識させるものであって、強い識別機能を有し」ている等の主張をしているが、裁判所はこれら主張を一蹴している。理由は、Aと認識されることは上記の通りである。また、「PRINTABLE HEMP WEAR」の表記は小さく、広く知られている証拠もないことを挙げている。
第3 考察
特許庁では、例えば以下のように、あるローマ字をデザイン化したものと容易に看取されると思われるものも、「容易に看取されない」と判断されることは珍しいことではない。そのため、同じ綴りと思われる2つの商標が、非類似とされることも珍しいことではない。
しかしながら、この傾向は決して顕著なものとまでは言えず、本件のように、「あるローマ字をデザイン化した物と容易に看取される」と判断される場合もある。
私見では、特許庁においてこのように「あるローマ字をデザイン化した物と容易に看取される」と判断された場合、裁判所にてこの判断を覆すことは非常に困難である。
異議2022-900041 | ≠ | ||
不服2022-7113 | ≠ | ||
不服2021-16406 | ≠ | ||
不服2021-15600 | ≠ |