【知財情報】知財高裁令和3年(行ケ)第10058号のご紹介

第1 事案

無効2019-800083号の審決取消訴訟。
上記審判は、株式会社ドワンゴの特許第4734471号「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」(以下、本件特許)の請求項1~10が進歩性又は進歩性がないとして、FC2,Inc.が無効審判を請求した事案である。
本件は、請求人が主張する無効理由はいずれも理由がないとした上記無効審判の審決に対し、FC2,Inc.が審決取消を求めたものである。
本記事では、本件特許の請求項1~10のうち、請求項1(以下、本件特許発明1)の進歩性に関する判断について紹介する。

第2 概要

1.被告(株式会社ドワンゴ)の本件特許発明1

(1A)動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置であって、
(1B)前記コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と、
(1C)前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生部と、
(1D)前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、当該読み出されたコメントを、前記コメントを表示する領域である第2の表示欄に表示するコメント表示部と、を有し、
(1E)前記第2の表示欄のうち、一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており、他の領域が前記第1の表示欄の外側にあり、
(1F)前記コメント表示部は、前記読み出したコメントの少なくとも一部を、前記第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示する
(1A)ことを特徴とする表示装置。
図9
【知財情報】知財高裁令和3年(行ケ)第10058号のご紹介_図9

2. 今回取り上げる争点

「甲第4号証・甲第5号証に開示する技術は、(1E)及び(1F)に相当するか。」
なお、(1E)及び(1F)に登場する「第1の表示欄」、「第2の表示欄」、「読みだしたコメント」の表示位置を、図9に色付けして下記に示す。
「第1の表示欄」は動画を表示する領域である(1C)。また、「第2の表示欄」は「読みだしたコメント」を表示する領域である(1D)。
【知財情報】知財高裁令和3年(行ケ)第10058号のご紹介_図9_右図

3. 裁判所の判断

下記の理由から、甲第4号証・甲第5号証に開示する技術は、(1E)及び(1F)に相当しないと判断。
・甲第4号証・甲第5号証が表示するのは「データコンテンツ」であって、、本件特許発明1が表示する「コメント」とは異なるものである。
・甲第4号証・甲第5号証はデータコンテンツを「読みやすくする」ためのものであって、本件特許発明1の「動画に含まれるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握できるようにする」ためのものではない。すなわち、技術課題、技術的意義が相違する。
(今回ここで取り上げない取消事由についても、裁判所はいずれも認めず、原告の請求を棄却。)

第3 考察

甲第4号証(特開2003-111054号公報)

【知財情報】知財高裁令和3年(行ケ)第10058号のご紹介_甲4

裁判所は、甲第4号証に開示されている発明について、

「動画を表示する動画エリア及びデータコンテンツを表示するデータエリアが設けられた上、動画エリアとデータエリアが重なり合うオーバレイ表示の状態となることもあり、その場合、データエリアの一部が動画エリアに重なり、その余の一部が動画エリアの外側になるとされている。また、甲4の図5には、動画が横長の状態で表示される場合には、データコンテンツの一部が動画エリアの内側に表示され、その余の一部が動画エリアの外側に表示される様子が図示されている。」

と認定し、そのうえで、

「・・・甲4技術にいう「動画エリア」が本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第1の表示欄」(動画を表示する領域)に相当するものであることは明らかである。」

とした。すなわち、下の図に示した緑枠部分(「動画エリア」)が、本件特許発明1の「第1の表示欄」に相当することは認めた。
【知財情報】知財高裁令和3年(行ケ)第10058号のご紹介_甲4_右図

そうすると、「動画エリア」「データエリア」「データコンテンツ」の位置関係は、「第1の表示欄」「第2の表示欄」「読みだしたコメント」と共通しており、甲4号証は(1E)(1F)の構成を開示しているようにも思われる。
しかしながら、次のように、「コメント」と「データコンテンツ」は相違する点と、技術的課題、異議が相違する点を挙げ、「データエリア」は「第2の表示欄」に相当しないと判断した。

「コメント」と「データコンテンツ」の相違
「・・・甲4技術におけるデータコンテンツは、動画の配信時に既に存在するものである。」
「以上のとおり、甲4技術の「データエリア」は、本件発明1にいう「コメント」を表示する領域ではないから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第2の表示欄」(コメントを表示する領域)に相当するということはできない。」
「甲4技術にいう「データコンテンツ」は、動画の配信時に既に存在するものであり、動画に対し任意の時間にユーザが付与する本件発明1の「コメント」とは、その概念を異にする(したがって、甲4技術にいう「データコンテンツ」と本件発明1にいう「コメント」は、重なり合いを持たない相互に排他的な概念である。)。また、甲4には、甲4技術にいう「データコンテンツ」が本件発明1にいう「コメント」を含むとの開示も示唆もない。」


技術課題、技術的意義の相違
「動画エリアとデータエリアをタイル表示の状態にすると、データエリアが非常に狭くなり、ここに表示されるデータコンテンツが読みづらいものとなるため、この問題を解消する目的で、動画エリアとデータエリアとのオーバレイ表示の状態を作出するものであると認められる。これに対し、本件発明1は、コメントを表示する領域である第2の表示欄の一部を、動画を表示する領域である第1の表示欄と重なり合わせた上、コメントの少なくとも一部を第1の表示欄の外側であって第2の表示欄の内側である領域に表示することとし、これにより、動画とのオーバレイ表示がされたコメントが動画に含まれるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握できるようにすることを目的とするものである(本件明細書の段落【0012】等)。」
「また、甲4技術において動画エリアとデータエリアとのオーバレイ表示の状態を発生させるのは、本件発明1のようにコメントが動画に含まれるものでないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握できるようにすることを目的とするものではなく、この点からも、甲4技術の上記内容が本件発明1の構成1E及び1Fに相当するということはできない。」
「甲4技術のオーバレイ表示の技術は、動画エリアとデータエリアがタイル表示の状態で表示されることから来るデータエリアの狭小化に伴うデータコンテンツの読みづらさを解消する目的で採用されたものであるのに対し、本件発明1のオーバレイの技術は、動画とのオーバレイ表示がされたコメントが動画に含まれるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握できるようにすることを目的とするものであり、両者は、その技術課題を異にするものであるし、そもそも、前記説示したとおり、甲4技術においてオーバレイ表示がされる「データコンテンツ」は、本件発明1においてオーバレイ表示がされる「コメント」とは異なるものであり、両者の技術的意義は異なるのであるから、これら2つのオーバレイ表示に係る技術を同視することはできない。」


甲第5号証(国際公開第2006/059779号)

詳しい説明は省略するが、甲第5号証も、甲第4号証と同様の理由により、(1E)、(1F)の構成を有さないと判断された。
【知財情報】知財高裁令和3年(行ケ)第10058号のご紹介_甲5

 

本件では、単に構成が公知技術であることだけでは進歩性を否定するには十分ではなく、その構成の目的(技術課題、技術的意義)が共通することが必要であることが示されたと思料する。権利者側の立場からは、発明にかかる構成の技術的異議を記載しておくことは、権利を無効にしないために非常に有効であると考えられる。

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