【知財情報】メタバース上における商標の使用
昨今、メタバース上における商標の使用について、どのようなことに注意すべきか、というご質問をいただく。
(1)従来のECサイトにおける商標の使用
まず、メタバースでの商標の使用を理解する第1ステップとして、従来行われているECサイトについて考える。
例えば、消費者が、ECサイトにてナイキのロゴとともに紹介されている靴が欲しくなり、「購入」ボタンをクリックする。そうすると、靴が自宅に届く。
このように、ECサイトにて商標をその商品等とともに表示させ、最終的な商品をリアルの世界で手に入れる、というのが、従来行われるインターネット上での商標の使用である。
この場合、商標法上の観点では、ナイキのロゴは第25類「靴」(リアルの世界の商品)について使用されている。
(2)メタバース上における商標の使用
一方、メタバースの場合、最終的な商品やサービスが、リアルの世界で手に入れられるケースと、リアルの世界で手に入れられないケースとがある。
前者は、消費者が、メタバースの仮想店舗にてナイキのロゴとともに紹介されている靴を購入すると、その仮想店舗を経営する小売業者やメーカーが実際の靴を発送し、消費者の自宅に靴が届く、というものである。この場合、(1)で説明したECサイトと何ら変わらない。すなわち、ナイキのロゴは第25類「靴」(リアルの世界の商品)について使用されている。
後者は、消費者が、メタバースの仮想店舗にて、ナイキのロゴとともに紹介されている仮想商品としての靴を購入する、というケースである。仮想商品としての靴というのは、仮想世界でのみ使用される靴であって、バーチャルスニーカー、デジタルスニーカーなどともよばれている。
この場合、商標法上の観点では、ECサイトとは異なり、商標は第25類「靴」(リアルの世界の商品)ではなく、例えば第9類「靴を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム」(仮想世界の商品)について使用されていることとなる。ナイキのロゴの使用対象となる商品は、あくまでデータである、というわけである。
(3)メタバース上における商標の使用についての注意点
上記に鑑み、メタバース上における商標の使用について、注意すべきことは、リアルの世界の商品について商標権を保有していても、十分ではない場合があると認識することである。もし、メタバース上で扱う商品が仮想世界の商品であれば、それに対応する指定商品、例えば第9類「靴を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム」についても商標権を取得する必要がある。
仮想世界の商品について、商標権を取得しておかないと、どうなるだろうか。
例えば、メタバース上で、第三者が自作した仮想商品の靴に勝手にナイキのロゴを使用し、販売しているとする。この場合、ナイキは第25類「靴」(リアルの世界の商品)の商標権では、その第三者に対し権利行使できないと、現時点では考えられている。すなわち、ナイキは、メタバース上で販売されるバーチャルスニーカー、デジタルスニーカーに対し、商標法上は権利行使ができない。
このことから、ナイキ、コンバースなど海外のメーカーは、第9類等での権利化を図る動きがみられる。
(参考:「WIPOマガジン メタバースにおける商標」https://www.wipo.int/wipo_magazine/ja/2022/01/article_0006.html)
(4)その他
なお、今後、仮想商品が非常に盛んになり、靴メーカーが仮想商品の靴を販売することが当たり前になったとする。その場合、(3)とは別の判断が出てくる可能性がある。つまり、第25類「靴」の商標権で、仮想商品の靴に権利行使できるという判断が出てくる可能性がある。