【知財情報】マドプロ出願 (1)基本情報

海外で商標登録をするには、以下の2つの選択肢があります。

・直接出願(現地の弁理士が特許庁に出願)
マドプロ出願(スイスにある国際事務局に出願)

以下、後者の「マドプロ出願」についてご説明いたします。

マドプロ出願の特徴

マドプロ出願とは

正式には、「マドリッド協定ついての議定書に基づく国際登録出願」と言います。「マドリッド協定についての議定書」(PROTOCOL RELATING TO THE MADRID AGREEMENT CONCERNING THE INTERNATIONAL REGISTRATION OF MARKS)は、国際登録制度により、迅速・簡易な商標の保護を実現することを目的として、1989年にマドリッドで採択された条約です。

手続き

  1. 日本で出願又は登録されている商標を「基礎」として、スイスにある国際事務局に願書を提出します。願書には、どの国で商標を登録したいかを「指定国」として記載します。
  2. 国際事務局は、指定国に申請内容を通知します。
  3. 指定国で、審査が開始され、18ヶ月以内に国際事務局に保護/拒絶を通知します。
  4. 国際事務局から出願人(あるいは弁理士などの代理人)に、保護/拒絶が通知されます。

BothDirection

メリット

コストが安い:上記のように、基本的には、出願人は国際事務局を介してして「指定国」とやり取りを行います。そのため、現地の弁理士へ支払う手数料が不要となり、コスト削減になります。一般的に、「2、3カ国以上の場合、マドプロ出願の方が安くなる」と言われています。

審査期間の予見性が高い:直接出願の場合、審査期間に規定がないため、国によっては2、3年、あるいはそれ以上かかる国もあります。一方、マドプロ出願の場合、遅くとも18カ月以内に審査結果を通知しなければならないというルールがあります。

統計

マドプロ出願の傾向

日本から出願されたマドプロ出願の件数の推移を表すグラフです。

2019年頃までは増加傾向が続き、2019年頃からは毎年3000~3500件が出願されています。

WIPO IP Statics (AppCount JP)

WIPO IP Statistics Data Center(https://www.wipo.int/madrid/statistics/?lang=en)にて作成

中国、ヨーロッパ、韓国、アメリカも、基本的には2019年頃までは増加傾向が続いています(もっとも、コロナの影響か、2019年以降は、国によっては減少傾向の国もあります)。

WIPO IP Statics (AppCount)

WIPO IP Statistics Data Center(https://www.wipo.int/madrid/statistics/?lang=en)にて作成

このように、日本国内でも、海外でも、外国への出願方法として、マドプロ出願を選択する企業は増えています。

マドプロ特有の制度

事後指定

マドプロ出願をした後に、「販売国や出店国が増えたので、国を追加したい」というニーズがあります。

そこで、マドプロ出願では、「指定国」を追加することができます。これを「事後指定」といいます。

代替

代替とは、国内商標(直接出願による登録)をマドプロに一本化するための仕組みです。

例えば、以下のようなシチュエーションです。

  • S社が、A国にて帽子の販売を開始するにあたり、2000年に直接出願。現在、帽子について商標権A1を所有している。
  • S社が、B、C国にて商品販売を開始するにあたり、2023年にマドプロ出願(A、B、C国を指定。現在、S社は靴も扱うため、靴について商標権を持たないA国も指定国にした。)。A国にて、商標権A1に加えて、新たに商標権A2を所有するに至る。

この状況だと、S社は、A国では帽子について二重の商標権を所有していることになります。更新にはコストが発生しますので、できれば、権利範囲が狭い商標権A1は放棄したい、と考えるでしょう。しかし、商標権A1を放棄すれば、2000年に出願したという利益も失います。(出願日・登録日が古い商標権はより安定しています。例えば、国によっては、登録日から5年目経過した商標権は、第三者がその権利を取り消すことができる条件が厳しくなります。)

そこで、マドプロでは、「代替」という制度を設けています。「代替」が認められると、マドプロ出願による商標権A2だけを更新すれば良く、商標権A1は更新せず放棄しても、商標権A1が2000年に出願したという利益は、商標権A2に引き継がれます。

※「代替」が認められるためには条件があります。このため、「代替の記録の申請」を行い、「代替」が認められるかを明示的に確認してから、商標権1の更新の要否を判断すべきでしょう。

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